観ればラップが好きになる入江悠監督の「サイタマノラッパー」

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このコラムでは、インディーズ映画としては異例の大ヒットを記録した「SR サイタマノラッパー」をご紹介いたします。

青春音楽映画として胸を打つ感動の作品で、ラップ? ラッパーって? という方には、ラップ入門の音楽映画としても楽しめます。

また、モノ(作品)を作るのには、ありったけの情熱や想いを注ぎ込まねばならない……そう教えてくれる映画でもあります。

 

 

サイタマノラッパーって?

この映画「SR サイタマノラッパー」は、たった一人の映画監督の熱い、熱い、熱い魂からこの世に生まれました!

その監督の名は、入江悠いりえ ゆう)さん。

この映画が発表されたのは2009年。おそらく入江さんが、20代後半から30歳にかかる頃だと想います。

彼は、日本大学芸術学部映画学科監督コースを卒業後、自主制作(つまり身銭を切って)で、自ら脚本・監督を担当して「SR サイタマノラッパー」を創り上げました。

この映画は、

  • 19回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 オフシアター・コンペティション部門 グランプリ
  • 13回富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭 最優秀アジア映画賞
  • 50回 日本映画監督協会 新人賞

など多数の映画賞を受賞しました。

まずは、「SR サイタマノラッパー」(シリーズ1)のトレイラー(予告編)をご覧ください。

SR サイタマノラッパー – 予告編


この短いトレイラーからも、監督の想いや、愛情、ユーモア、そして、情熱が感じられます。監督の真摯な心が、画面の向こうに透けて見えるようです。

ポピュラー音楽には、さまざまなジャンルがありますが、ラップやヒップホップはどちらかと言えば、生まれてから比較的新しいジャンルですよね。特に日本では、ここ30年くらいではないでしょうか?

ですから、ラップというと色眼鏡で見られたり、先入観で誤解されたりすることも多いと想います。

「SR サイタマノラッパー」もそうやって、ある種の固定観念で見られてしまえば、ダサかったり、不良っぽかったり、頭悪そうだったり……そんな印象を持つ方もきっといらっしゃるでしょう。

でも、そんな方にこそ観て欲しい映画です。この映画は、音楽に対する愛情で溢れています。

※ヒップホップとは、1970年代に生まれた黒人の若者によるストリート・アートの総称。ラップ、DJプレイ、ブレイクダンス、グラフィティは、ヒップホップの四大要素と言われています。

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サイタマノラッパーは驚くほど良くできた自主制作映画

どんなにストーリーがよくても、映像が美しくても、音楽映画は、その中に描かれる音楽の完成度やリアリティーで価値が決まってしまいます。

特に、ここ WooM-Song.Club に集う多くの作曲家や作詞家さんは、当然のように映画の中で、音楽がどう描かれるかには厳しいですよね。

僕も当然そうです。

たとえば、画面の中にシンガーソングライターがいて、ギターの響きと手の動きがチグハグだったりすると、それだけで白けてしまうのです。

でも、「SR サイタマノラッパー」は本物でした。凄くかっこいいラッパーというのではなく、埼玉から世界を目指す、まだまだ発展途上のダサいくらいに真面目な若者を描いていて、彼らのラップも、そういう意味で味があるのです。

真面目な話、野口はこの映画とその後に制作された「SR サイタマノラッパー2、3」を観て、今まで以上にラップが好きになりました。

 

自主制作での資金難

サイタマノラッパーは自主制作ながら、驚くほど良くできた音楽映画でした。もちろん、自主制作を低く見ているのではありません。

自主制作の世界の資金難を知っているから、その中で頑張るアーティストには最大の応援と敬意を送りたいのです。

自主制作は、言い換えれば「自費制作」です。日本の映画界は、音楽の世界以上に厳しいそうです。

制作費は高騰し、公的な機関からの援助も望めない、自費やカンパに頼るしかない、映画館での公開は難しい…。

だから、一縷(いちる)の望みを託して、インディーズが参加可能な映画祭に作品を送り続けるのだそうです。丁度、作詞家さん作曲家さんが、受かるのは1000曲に1曲といわれる楽曲コンペにチャレンジし続けるのと同じですね。

監督の入江悠さんは、いろいろな仕事でためた貯金をはたいて、この映画を作ったそうです。映画に参加した若い役者やミュージシャンたちも、1本目は手弁当覚悟での参加だったらしいです。

最終的に、入江さんは、家賃が払えなくなって、東京から実家のある埼玉に引っ越したという涙のエピソードもあるのです。

監督は自身のブログで、

「映画を見せようと努力すればするほど貧乏になる。それは映画自体や作り手の評価とはまったく別ものだ」

と心情を吐露しています。

「今のオレは生活の全て、貯金の全てを制作やプロモーションにまわして貧乏だけれど、そんなことは映画そのものには関係ない! この映画は素晴らしい出来だよ! 皆さん、観てください!」

……そう心の声が聞こえてくるようです。

この若き天才監督の矜持に胸が熱くなります。映画のクライマックスやいろいろな場面で、グッと泣けるのですが、それは画面を通して監督の叫びが聞こえるからだと想います。

 

本物は本物を知る

日本のラップ界を、その草創期から牽引してきたラッパーであり、映画評論などもこなす宇多丸(うたまる)さんは、この映画を手放しで激賛しています。

「サイタマノラッパーでは、カッコ良さは描いていない! でも、溢れんばかの愛情で若いラッパーたちを描いている!」

と語り、

「日本語ラップの世界を、日本で初めて正しい視点で映画にした!」

と評しているのです。

そして、登場人物一人一人が生きたキャラクターを演じていることをあげ、自身のラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」で、映画のシーンをいくつも例にあげ、「号泣した」とか「声を上げて笑った」と、まるで一ファンのスタンスで愛情豊かに解説してくれています。

日本のラップ界の大御所をここまで熱くする映画! 宇多丸さんもスクリーンの向こうに入江監督の熱い魂を確かに感じとっているのです。

TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウイークエンドシャッフル(2009年3月21日放送分)」

エンディングで流れる主人公たちのラップをお聴きください。

 

サイタマノラッパー2も超おすすめ!

SR サイタマノラッパーの大成功を受け、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭グランプリで得た賞金を元に作った「SRサイタマノラッパー2〜女子ラッパー☆傷だらけのライム〜」が、またまた良いのです。

この映画もヒットし、DVD化もされたのですが、入江悠監督の生活は楽にならず、いかに自主制作映画が大変な世界かを、さらに証明することにもなりました。

前記、宇多丸さんは、

「Save入江監督!! DVD やノベライズ小説を買って、監督を救おう!」

とラジオで呼びかけていたほどです。

なんと、1と2を合わせて、ラップの故郷であるニューヨークでも試写会が行われて、大喝采を浴びたそうです。

サイタマノラッパー2のトレイラー(予告編)です。

SR サイタマノラッパー2 – 予告編

シリーズ3となる、「SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」もありますが、それはいつかご紹介したいと想います。

 

主題歌・サントラも一級品

シリーズを通して、音楽を担当している岩崎太整さん。

作詞やラップの制作、ラップの指導や監修をしている「P.O.P. ORCHeSTRA」の上鈴木兄弟のお二人。

本当に素晴らしい仕事をされています。

1作目など手弁当のような形で、監督を支えたそうですが、本当に素晴らしいサウンドトラックや主題曲を創り上げています。当然、サントラの CD も素晴らしいです。

だから、音楽を聴いただけで、この映画がリアリティーのあるものと感じられます。だから、この映画が素晴らしい音楽映画の傑作となったのです!


上鈴木兄弟が教えるラップの教材です。

 

まとめ

サイタマノラッパーは本当に素晴らしい音楽映画です。見終わると、なんかだか自分でもラップしたくなってくるから不思議です。

野口は、このコラムを書くことで、サイタマノラッパーの素晴らしさを再確認するとともに、YouTube 経由ではありますが、宇多丸さんという素晴らしい才能に出逢えたことも本当によかったと想っています。

宇多丸さんのラップ愛、映画愛、半端ないです。皆さんも、ぜひ、入江監督の魂の作品「サイタマノラッパー」をぜひご覧ください。

野口 義修

投稿者プロフィール

音楽プロデューサー。
ベストセラーの『作曲本』(シンコー刊)や『楽しく学べる作詞作曲』(ナツメ社)の著者。
あみんの「待つわ」、雅夢の「愛はかげろう」、アラジンの「完全無欠のロックンローラー」、 伊藤敏博の「さよなら模様」......など多くの才能やヒット曲を世に送り出す。ヤマハ音楽院、昭和音大で作曲などの講師を歴任。

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野口 義修

音楽プロデューサー。

ベストセラーの『作曲本』(シンコー刊)や『楽しく学べる作詞作曲』(ナツメ社)の著者。

あみんの「待つわ」、雅夢の「愛はかげろう」、アラジンの「完全無欠のロックンローラー」、 伊藤敏博の「さよなら模様」......など多くの才能やヒット曲を世に送り出す。

ヤマハ音楽院、昭和音大で作曲などの講師を歴任。

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