天才リチャード・レスター監督のすご技!ビートルズ主演映画『ハード・デイズ・ナイト』その2

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このコラムでは、ビートルズの映画『ハード・デイズ・ナイト』そして監督リチャード・レスターを紹介します。

監督のリチャード・レスター監督は、この作品と2作目の『HELP』、2作品の評価としてMTV社より、「MTV の父」と呼ばれています。

ハード・デイズ・ナイトの映像表現は素晴らしい! 天才監督の技を紹介します!

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『ハード・デイズ・ナイト』が白黒の理由

本題に入る前に余談ですが、この映画が白黒で撮影されたのは、予算があまりかけられなかったからだそうです。当時のビートルズは映画に関しては新人ですから仕方がなかったのでしょう。

しかし、それが功を奏して、モノクロームならではの非常に美しい仕上がりになっています。

リチャード・レスター監督とは

ビートルズが初主演映画の監督を探しているという情報をキャッチした、リチャード・レスターは自ら監督に立候補しました。それまでは、短編映画や CM の制作がメインの仕事でした。

しかし、ピーター・セラーズという世界的に有名なコメディアン(後の『ピンク・パンサー』シリーズのクルーゾー警部役で有名)と組んでコメディタッチの小作品を作っていたことが評価されたのかもしれません。見事、監督に選ばれました。

ジョン・ポール・ジョージ・リンゴの才能開花!ビートルズ主演映画『ハード・デイズ・ナイト』その1 でもご紹介したように、ビートルズは、自分たちのデビュー作品をありきたりの音楽映画にしたくなかったので、レスターのようなコメディ畑の監督に興味を持ったのでしょうね。

そこで相思相愛となり、レスターがメガホンを握ることとなりました。そういえば、ビートルズの音楽プロデューサー「ジョージ・マーティン」も、もとはコメディ音楽をプロデュースしていたのです。ビートルズとコメディは相性が良いのです

映画の内容やレスターのテクニックは、後に、触れるとして、もう少しレスター自身の話をしましょう。

この映画『ハード・デイズ・ナイト』とビートルズ映画2作目の『ヘルプ』のレスター監督の素晴らしい映像センスやユーモアは、世界中から認められる処となりました。後にレスターは、MTV 社から「MTV の父」という大変に名誉な称号を与えられました。

その後のロックバンドやポップスターたちのミュージックビデオが面白く、ユニークな発想のものが多いのも、このリチャード・レスター監督の才能からスタートしていたのですね。確かに、この『ハード・デイズ・ナイト』は、音楽が流れるどのシーンを切り取っても、良く出来たミュージックビデオといっても良い、しゃれた映像になっています。

 

メンバーとレスター監督の関係

リンゴ・スターに注目し、彼の俳優としての素晴らしい才能を引っぱり出したレスター自身の演出力は特筆です。

ビートルズに最後に参加し、実際も、少々内気で劣等感を持っていたリンゴ青年を変にいじることなく、超魅力ある人間として描いた功績は特大です。

ジョージ・ハリスンにしてみれば、恋のキューピッド、レスター監督様々(さまさま)でしょう。なにしろ、ジョージの奥様となるパティ・ボイドを映画のエキストラに抜擢したのもレスターでした。

二人を近づけた恋のキューピッド役だったのでした。

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ジョージとパティ

ジョン・レノンの『 僕の戦争(How I Won The War)』(1967)を監督したのもレスターでした。メンバーの中でも、レスターともっとも仲良くしたのは、意外にもジョン・レノンだったのです。ユーモアのセンスが共通していたのでしょうか?

ジョンはプライベートでも、レスターと一緒にディランのレコードを聴いたりしていたそうです。

また、レスターが監督した映画『ナック』(1965年)が、カンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞(最高賞)を受賞した時は、お祝いに駆け付けたりしています。

ポール・マッカートニーには美談があります。実は、スーパーマン・シリーズなど順風満帆にヒットを飛ばしたレスター監督でしたが、1989年、ある作品の撮影中に俳優が死亡事故を起こしてしまいます。その後、レスターは監督業を続ける気力を失ってしまいました。

そこで、ポール・マッカートニーは、レスターに自分のワールド・ツアー記録映画の映像監督を頼んだのでした。さすが、人情家のポールです。レスターもポールとなら出来そうだということで、傑作記録映画『GET BACK』を仕上げました。

GET BACK Trailer

 

ハード・デイズ・ナイトの演出テクニック

ここからは、実際に映画を観て、気付いたポイントを箇条書き的に紹介していきます。

野口は、子どもの頃から何十回もこの映画を観てきました。しかし、久しぶりにこの傑作映画と対峙すると、発見ポイントが山ほどありました。

幼い頃は、なにも気が付いていなかったんだなぁと、当たり前の事にため息をつく野口でした。

 

新旧の対比

この映画は、ビートルズの日常を面白おかしく魅せながら、実は、いろいろな意味の新旧対比を描いています。

当時、古い(旧い)世代にとっては、ビートルズの音楽は、まだまだ不良っぽいと想われたり、音楽性も低いと想われたりすることもあったのです。日本では、学校をサボってビートルズを観に行ったら退学! なんてこともあったほどです。もちろん、本国のイギリスでも、同様の感じだったらしいです。昔から、大人たちは新しい物に、まずは否定から入ろうとします。

ですから、脚本・演出共に、作品の隠しテーマを新旧対比の構図としています。もちろん、それを嫌みでなく、笑いに昇華して描いています。その描き方が、レスター監督のすご技なのです! もちろん、メインテーマである、ビートルズの人間としての魅力・音楽の素晴らしさも全力で撮りきっています。

 

対比その① ポールのおじいさん

作品の重要人物として、ポールのおじいさんが登場します。この映画になくてはならない、いわばストーリーの主軸です。映画では、彼を何度も何度も「クリーン」だと表現します。

クリーンは、「きれい好きな、身だしなみのよい、(精神的・道徳的に)潔白な」というニュアンスで、「紳士」と字幕には書かれていました。

この紳士が、くせ者です。至る所で悪さをし、悪態をつき、暴れまわり、でも外面はクリーンなのです。この描き方こそが、旧の象徴です。もちろん、じいさんが何をしても憎めないように描ききるのがレスターの力です。なんだか可愛いじいさんです。paul_og

ポールとおじいさん

対比その② エルヴィス・プレスリーの写真

ホテルの初老の従業員が、ビートルズの部屋で読んでいる新聞の記事にエルヴィス・プレスリーの写真がデカデカと写っています。じっくり観ないと気付かないのですが、これも新旧の対比でしょう。

もちろん、ビートルズは全員、エルヴィスの大ファン! 「エルヴィスがいたからロックを始めた」とジョン・レノンも回想しているように、この新聞の写真は、エルヴィスに対するリスペクトでもあります。

しかし、『ハード・デイズ・ナイト』を作ると決まったときに、ビートルズ全員が「(エルヴィスの映画のような)古いメロドラマみたいなのはやめよう」と言ったのを想い出せば、エルヴィスの写真は、新旧の構図に当てはまりますね。野口も、うっかり見逃すところでした。

 

下げといて上げる!

監督のリンゴ・スターの描き方は、天下一品です。下げといて上げる! そのセンスが素晴らしい。もちろん、リンゴの演技力もあります。でも、演出がそれを引き出すのです。

他のメンバーにファンレターが山ほど来ているのに、リンゴには、たった一通しか来ていない! そんな場面で、「鼻がデカいからだ」「背が低いからだ」と……例のおじいさんやメンバーに散々言わせるのです。

リンゴも凹みますが……直後に、リンゴ個人宛の大量のファンレターが届くという演出です。下げといて上げる! 演出で笑わせます。結果として、リンゴが光るのです。

 

メンバーの愛情が表現されているシーン

気弱なリンゴですが、テレビ収録のリハーサルで AD さんにドラムを触られて、切れるシーンがあります。リンゴの意外な一面を見せられます。

そこで、ジョージ・ハリスンが、「このドラムで、リンゴはビートルズを支えているんだ」的な重要なひと言を発します。ビートルズに最後に入ったリンゴに対するメンバーの愛情を表現する素晴らしい場面です。

 

『ハード・デイズ・ナイト』を象徴する2つのシーン

ビートルズがテレビ収録の空き時間に、スタジオの非常口から空き地に抜け出す名場面があります。空からビートルズが自由奔放に遊ぶ姿を映す映像は、まさにミュージックビデオの原点とも言えます。

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空き地で遊ぶビートルズ

その空き地に抜けだす際に、ビートルズのメンバーは、真っ黒な鉄格子の階段を駆け下ります。レスター監督は、階段の下から彼らを映します鉄格子の向こうのオリの中のビートルズ! そんなイメージの映像でした。その先、広々とした空き地が待っているのです。

そうです! この鉄格子の階段を下るシーンは、ライブ会場からテレビ局スタジオと日々閉じ込められている、つまり自由のないハード・デイズ・ナイトなビートルズの日常の象徴だと感じました。

実は、映画の冒頭、メンバーが電車で移動する場面でも、荷物用の鉄格子が付いたオリの中で演奏するシーンがあるのです。おじいさんのいたずらに我慢の限界を迎えたスタッフが、おじいさんを鉄格子のついた部屋に閉じ込めたのでした。それじゃあ可哀想と、メンバーも一緒にその中に入り、歌を披露する流れです。これも、オリの中=ハード・デイズ・ナイトな毎日を象徴する場面だったのですね。

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オリの中のビートルズ

 

一番の見どころはココ!

リンゴがおじいさんに唆(そそのか)されて、リハーサルをすっとばして街をうろつくシーンは、この映画でも最高の見せ場となりました。そのせいで他のメンバーもスタッフも、リンゴを探し大慌てをする流れなのです。

そのシーンで流れる BGM は、ビートルズの名曲「ジス・ボーイ」(そのインスト・アレンジ・バージョン)です。実に、しゃれていますね。タイトルが「この男の子」ですものね。

しかも、アレンジは、哀愁たっぷり……古いシネマで流れそうな、すこしジャズっぽいオールドスタイルな仕上げになっています。この選曲や聞かせ方も、間違いなくレスター監督のアイデアでしょう。

その徘徊の途中で、小学校をサボった少年たちに出会います。リンゴは「自分もサボった」と彼らに伝えます。川原で遊ぶその小学生たちは、そう4人いるのです。

これが3人でも5人でもダメですよね。ビートルズと同じ4人。ここで、リンゴは自分の子どもの頃を想い出すのですね。

そこで、オールドスタイルで懐かしいサウンドのBGMが流れるのは、ビートルズを認めない大人(旧世代)たちに、オジサンたちにも若い頃があったでしょう! と伝えているとしか思えません。レスター監督のすご技は、こういうところでも発揮されます。

 

レスター監督は主題曲『ハード・デイズ・ナイト』のレコーディングにも参加していた

実は、レスター監督は主題曲『ハード・デイズ・ナイト』のレコーディングにも参加して、言いたい放題だったらしいのです。たとえば、曲の頭に驚くような音を加えて欲しいとか……曲のエンディングには、ドリーミーなFO(フェイドアウト)のフレーズが欲しいとか……。

ビートルズのエンジニア、ジェフ・エメリックの著書「ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実」には、レスター監督は単なるレコーディングの邪魔をしに来た人的なニュアンスで書かれていましたが……今回、いろいろ調べてみると、監督のレコーディングに対するオーダーもすべて映画のためと分かります。

実際、あのイントロ! あのエンディングは、レスター監督のオーダーがなければ、なかったはずだったのですからね。……まだまだ、みる場面観る場面に映像やコンセプトのネタが仕込まれているんですよ!

あなたも、『ハード・デイズ・ナイト』体験をしてみませんか?

 

まとめ

今回は、『ハード・デイズ・ナイト』をレスター監督の魅力と共にお伝えしました。本当に、鋭い監督さんだったのですね。

よかったら、ジョン・ポール・ジョージ・リンゴの才能開花!ビートルズ主演映画『ハード・デイズ・ナイト』その1もご覧くださいね。

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ポールとレスター監督

ハード・デイズ・ナイトに関しては、世界一有名なギターコード! ハード・デイズ・ナイトのジャ~~ン! を分析でも解説しています。

野口 義修

投稿者プロフィール

音楽プロデューサー。
ベストセラーの『作曲本』(シンコー刊)や『楽しく学べる作詞作曲』(ナツメ社)の著者。
あみんの「待つわ」、雅夢の「愛はかげろう」、アラジンの「完全無欠のロックンローラー」、 伊藤敏博の「さよなら模様」......など多くの才能やヒット曲を世に送り出す。ヤマハ音楽院、昭和音大で作曲などの講師を歴任。

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野口 義修

音楽プロデューサー。

ベストセラーの『作曲本』(シンコー刊)や『楽しく学べる作詞作曲』(ナツメ社)の著者。

あみんの「待つわ」、雅夢の「愛はかげろう」、アラジンの「完全無欠のロックンローラー」、 伊藤敏博の「さよなら模様」......など多くの才能やヒット曲を世に送り出す。

ヤマハ音楽院、昭和音大で作曲などの講師を歴任。

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