ポール・マッカートニーの変幻自在ボーカル・テクニック集

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このコラムでは、ポール・マッカートニーの変幻自在のボーカル・テクニックを紹介して、ワンパターンになりがちなボーカリストの表現力を向上させるヒントをお送りします。

WooM(ウーム)!!!!!

 

ポール・マッカートニーの声の表現力

ポール・マッカートニーほど、レコーディングでいろいろな声を使い分けているアーティストも少ないと想います。

自分で曲を作る分、歌い方や声の表情を変えることで、メロディーにさまざまなニュアンスを加えることができるのです。

では、そんなポールの特徴が出ている曲をご一緒に聴きましょう。

 

のっぽのサリー

のっぽのサリーは、アメリカの黒人ロックンローラー「リトル・リチャード」のオリジナル曲(1956年)。ポールは、リトル・リチャードの大ファンで、ビートルズでも同曲をレコーディングしました。

This is Rock’n’roll といった激しいボーカルです。バラードの印象が強いポールですが、パワフルなボーカルも持ち味の一つです。

ザ・ビートルズ – のっぽのサリー

子音を強く発音し、拍の頭を叩きつけるようなボーカルですね。子音をハッキリと歌うことでリズムが明確に出て、曲頭の早口言葉のような歌詞も実に気持ちよく聞こえます。

時おり、スッと透明で甘い裏声(ファルセット)に入り、♪Uh~~~とスキャットを挟みます。そのギャップが、この曲の魅力でもあります。

ポールは、本家リトル・リチャードのレコードを聴きまくって、そのボーカル・スタイルを手に入れました。

本家を聴いてみましょう。

リトル・リチャード – のっぽのサリー

ポールが大ファンになるのも分かります。アメリカのロックンロールの大スターです。背面や片足を上げてのピアノ演奏、ふいに入る仰け反りのフリもステキ!

この映像は、曲が発表された1956年のもののようですね。ポールは当時、14歳くらいでしょうか? ポールは、リトル・リチャードの細かい歌い方もコピーしていましたね。

1分9秒あたりに……Rock’n’rollの原点、ビル・ヘイリーが観客として映るのがしゃれています。ヘアスタイルは、往年の横山ノック調です。

 

ブラックバード

アコギ一本の名曲「ブラックバード」です。ポールがアメリカ黒人の公民権運動を応援するために作った曲です。

公式レコーディングの歌唱は、とにかくクールに丁寧に歌っていますね。どちらかと言えば、クラシック寄りの楽曲イメージです。これがポールの地声といってもいいでしょう。

ザ・ビートルズ – ブラックバード

お聴きのように、ポールはビブラートを一切使いません。なので、メロディーの最後が単調にならないように、さまざまな終わり方の工夫をしています。

ビブラートが上手い人は、ロングトーンはビブラートで飾ればいいのですが、ノン・ビブラートの場合、そうはいきません。伸ばさずフッと短めに切ったり、ロングトーンをきれいにデクレッシェンドしたり、ロングトーン終わりで子音の発音を強調したりして、単一な表現にならないような工夫をしているのです。

各フレーズの終わりの部分のポールの表現をよく聴いてみてくださいね。
また、サビの部分(♪ブラックバード・フライ~~)は「ダブルトラック」といって、ポールは全く同じメロディーを2回歌っています。
ボーカルを上手く聞かせるビートルズお得意のレコーディング・テクニックです。

ヘルタースケルター

上記ブラックバードと同じ「ホワイト・アルバム」に収録されています。同じアルバム、同じアーティストとは思えないハードなボーカルです。

ザ・ビートルズ – ヘルタースケルター

怒り、狂気、激情……などがほとばしるようなボーカルですね。

この時期のポールは、ビートルズの中のさまざまな問題とかで、かなり心に鬱積したものがあったのです。それを一気に吐き出す歌唱! そんな感じに聞こえますね。

ちなみに、ヘルタースケルターとは、下のフォトのようならせん階段の滑り台です。ポールの狂ったようなボーカルイメージとはかけ離れていますね。

歌詞を読んでいくと、ポール自身の薬物体験をダブらせているようにも聞こえてきます。

実際、この曲を聴いて、神からの啓示を感じ、狂信的カルト指導者チャールズ・マンソンは、信者たちに女優のシャロン・テートを惨殺させました。

この楽曲の奥底には、やはり狂気が潜んでいるのかもしれません。

helter_skelter

上記2曲が入ったビートルズの宝箱的アルバムです。さまざまなボーカルスタイルが楽しめる曲が多いです。

 

ソー・バッド

1983年に発表したポップなバラードの傑作です。アルバム「パイプス・オブ・ピース」に収録されています。

ボーカルが印象的、全編、ファルセット(裏声)のみで歌われています。ポール史上初の試みと言えるでしょう。

R&Bの黒人シンガーが全編ファルセットで歌うのはよくあることですが、ポールのファルセットには独特の色合いがあり、R&B系のそれとは雰囲気が随分違います。さすが、ポールは裏声も使えますね。

ポール・マッカトニー – ソー・バッド

この曲のメロディーの美しさ、甘さ、切なさを表現するには、地声ではなくファルセットが最適との判断だったのでしょうね。

メインボーカルをファルセットにすることで、バックコーラスとの親和性が増し、溶け合い、コーラスが素晴らしく美しい楽曲に仕上がっています。

ちなみに、バックでギターを弾いているのは、「10CC」(テンシーシー)というロックバンドのメンバ-、エリック・スチュワートです。

また、ビートルズ時代からの盟友、リンゴ・スターがドラムを叩いていますが、さすがに世界のスター、チョットした仕草がたまらない味を出していますね。ドラムのタムタムを♪ボボボンと叩くときに、口でつぶやいてみたり……役者ですね! それもそのはず、ビートルズの映画では、すべてリンゴが主役を務めています。

 

オー!ダーリン

2つの動画がありますが、最初は、CD に収録された完成版です。

ザ・ビートルズ – オー!ダーリン

次は、曲作りの最中のリハーサルの様子です(驚)! まだ、メロディーも定まっていないようですね。

 

実は、ポール・マッカートニーがボーカル・レコーディングで最も苦しんだ曲です。毎日、スタジオに一番乗りして、声がつぶれるのも覚悟して、一発勝負で歌い直すのを繰り返しました。

それは、頭の中に「こう歌いたい!」という明確なビジョンがあったからでしょうね。ある部分は、ジョン・レノンのように……ある部分は、エルヴィス・プレスリーのように……ある部分は、リトル・リチャードのようにと、理想のスタイルを描きながらも自分らしさを強調するボーカル・スタイル! 息継ぎの音まで計算して、見事なロック・ボーカルに仕上がりましたね。

鬼気迫るという表現が適当なのか? ロックはこう歌いたいという明確な意思表示がOKテイクから感じ取れます。

現在のレコーディング方法では、感情がうまく表現できれば、ピッチもリズムもビブラートまでソフト上でコントロールできてしまうので、逆に、この曲のような一発勝負の凄まじいボーカルはなかなか録音できないです。

しかし、リハーサル・テイクは、肩の力を抜いて歌っています。 ここでも、ボーカル表現はカラフルです。ロックに精通しているファンには、このリハーサル・テイク! モータウン・サウンドの大御所 Smokey Robinson & The Miracles の「You really got a hold on me」(スモーキー・ロビンソンとミラクルズ ユー・リアリー・ガット・ア・ホールド・オン・ミー)を想い出すかもしれませんね。 そういえば、ビートルズも同曲をカバーして演奏していました。

こういう曲をつくりたい → いろいろなアレンジや歌い方にチャレンジ → 結果こうしたい! ……というポール・マッカートニーの思考過程や曲作りの、そしてボーカル表現の考えが分かるようなテイクですね。 

 

アイル・ギブ・ユー・ア・リング

ポールがもっとも得意としている2ビート系のポップ・ソング! 誰でも知っているようなメジャーな曲ではありませんが、本当に名曲です。

ポール・マッカトニー – アイル・ギブ・ユー・ア・リング

ポールは実に楽しそうに歌っています。フレーズ毎に声の表情や歌い方を変えて、まるで声の百面相で遊んでいるようにも聞こえます。

シャックリのように喉を踊らせて声を出したり、子音(R)でおどけたり、鼻音で遊んだり、途中からは40年代の懐かしきミュージカル・スタイル(フレッド・アステア)を意識したりと、ポップ・ボーカリストには、参考になる声の表現がいっぱいあると想います。

 

曲に合わせて歌い方・声を決める

ポール・マッカートニーのボーカルは、以上お聴きのように、変幻自在です。でも、基本はメロディーをどうやって、より良く伝えるかでスタイルを決めていますね。それが、今回、よく分かりました。

皆さんも、自分らしさの表現を深めると共に、広げてくといいでしょう! 

ポールのレコーディング秘話がすべて分かる名著をご紹介しますね。

・ビートルズのレコーディング全記録


・ビートルズのレコーディングエンジニア「ジェフ・エメリック」の渾身の録音日誌

上記2冊があれば、ビートルズのレコーディングのすべてが分かります!

ポール大好き野口のために、ポール愛やビートルズ愛をコメント欄にお寄せくださいね。

 

まとめ

納得できるまで歌い直す!

それが大切です。だって、ボーカル表現には無限の可能性がありますからね。

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野口 義修

投稿者プロフィール

音楽プロデューサー。
ベストセラーの『作曲本』(シンコー刊)や『楽しく学べる作詞作曲』(ナツメ社)の著者。
あみんの「待つわ」、雅夢の「愛はかげろう」、アラジンの「完全無欠のロックンローラー」、 伊藤敏博の「さよなら模様」......など多くの才能やヒット曲を世に送り出す。ヤマハ音楽院、昭和音大で作曲などの講師を歴任。

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野口 義修

音楽プロデューサー。

ベストセラーの『作曲本』(シンコー刊)や『楽しく学べる作詞作曲』(ナツメ社)の著者。

あみんの「待つわ」、雅夢の「愛はかげろう」、アラジンの「完全無欠のロックンローラー」、 伊藤敏博の「さよなら模様」......など多くの才能やヒット曲を世に送り出す。

ヤマハ音楽院、昭和音大で作曲などの講師を歴任。

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