一発で世界を変える飛び道具! キーボード&シンセサイザー編
- 2016/5/5
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このコラムでは、古今東西のヒット曲から、世界を変えた個性的なキーボードの音色やアーティストを紹介します。それを「一発で世界を変える飛び道具」と名付けました。作曲テクニックや編曲アイデアの参考にして下さい!
作詞家、作曲家、シンガーソングライターを志す皆さん! プロデューサーを志す皆さん! そして、音楽を愛する皆さん!
どうぞ、一発で世界を変える、さまざまな飛び道具の世界(キーボード&シンセサイザー系)をお楽しみ下さい。 WooM(ウーム)!!!!!
一発飛び道具とは?
音楽が心に突き刺さるとき、思い出に残るとき……その音楽全体を聴いてから心が反応するのではなく、瞬間のメロディーや、たった一つの言葉、一発のアレンジの仕掛けで、グッときて、やられてしまったりしますよね。
我々、WooM-Song.Club では、そんな楽曲のフック(美味しい引っかかりのポイント)となりうる仕掛けを、「一発飛び道具」と名付けてみました!
世界を変えてきた名曲には、そんな飛び道具のヒントがいっぱいあります! ここでは、さまざまなヒントを紹介したいと想います。
有名な楽曲が中心ですが、マニアックなものもあると想うので、ぜひ、そのテクニックやアイデアをご自分の楽曲にも応用くださいね!
キーボード系飛び道具
世界が驚いた正真正銘の一発飛び道具サウンド!
それは、1983年に大ヒットしたYESの「ロンリー・ハート」で聴けるオーケストラ・ヒット(オケヒット)!
この音の正体は「フェアライト CMI」というサンプラーで当時、1,200万円もする高価な楽器でした。
「ジャン!」という一発で世界を変えたといっても過言ではないでしょう。
イエス – Owner Of A Lonely Heart(1983年発表)
20秒のところでジャン! とくるアレです。2分25秒から間奏では派手に暴れています。
フェアライト CMI
下鍵盤のドの音が気になります(汗) 透明人間か? ゴーストか? まさか、故障!?
1983年当時、フェアライト CMI は1,200万円もしましたが、今や数万円のシンセサイザーやプラグインのソフトでも、簡単にこの音(オケヒット)を出すことが出来ます。
デジタル楽器のあっという間の低価格化は、アマチュアには素晴らしい恩恵です!
シンセサイザーの天才
シンセサイザーといえば、避けて通れないのが、アメリカの電子工学博士であるロバート・モーグさんが開発したモーグシンセです。
その『モーグ III-P』(通称、箪笥=タンス)というシンセサイザーを駆使してアルバムを制作、世界にその凄さを紹介したのが日本人の作曲家、冨田勲(とみたいさお)先生です。
(冨田先生は、2016年5月5日、慢性心不全のため、84歳でご逝去なさいました)
日本でほぼ最初にモーグを手に入れ、多重録音に多重録音を重ね、あり得ない美しさの音楽世界を構築しました。
アルバムの全フレーズ、全音色が一発飛び道具といっても過言ではありません。
世界のアナログシンセサイザーの方向性や可能性を定義したのは、冨田先生です。
1971年に、アメリカから楽器を購入、最初は操作が分からず、
「1,000万円も出して鉄くずを買ってしまった…。」
と途方に暮れたそうですが、1974年のアルバム「月の光」は、前述した通りのあり得ない美しさと新鮮なサウンドで、アメリカでも大きなヒットを記録しました。
アルバム「月の光」は、1975年1月18日付けのビルボード(クラシカル・チャート)で2位にランキングされたのを初め、世界的にヒットし、米グラミー賞4部門にもノミネートされた。
(Wikipediaより)
冨田勲 – 月の光
冨田勲 – アラベスク第1番
まだ音楽で使えるコンピューターもMidiも無い時代に、アナログシンセサイザーを手弾きして作り上げた世界。
イマジネーションを具現化できるシンセサイザーという楽器自体はもちろん素晴らしいですが、クラシックのスコア(楽譜)から、驚くべきサウンドを閃く冨田先生の感性は、偉大です。
世界に誇るマエストロです。
冨田勲先生とマイケル・ジャクソン
マイケル・ジャクソンは、来日の際、シンセサイザーを学びに、冨田先生の自宅を訪れたそうです。上で紹介した「月の光」の口笛の音色の作り方が分からずに、直接本人に聞きに行ったのです。
マイケルの学びの精神は素晴らしいです! 作曲を学びにポール・マッカートニーの家に押しかけたこともありました!
冨田先生の自宅を訪れた時のニュース映像を見付けました!
冨田勲先生の自宅に訪問したマイケル・ジャクソン
冨田勲先生とマイケル・ジャクソン
ちなみに、アルバム「月の光」の音源を完成させた先生は、最初に日本のレコード会社に、この企画を持ち込んだそうですが、全社発売拒否 だったそうです。
冨田先生の失望は、かなり大きかったと想います。
また、シンセサイザーの凄さや冨田サウンドの偉大さが理解できなかった、当時の日本のレコード会社にも、ちょっとガッカリですね。
それで、伝手(つて)を頼ってアメリカでやっと発売が出来たそうです。そのアルバムが世界で大ヒットしてから、日本レコード会社は、アメリカからの逆輸入という形で、日本国内でも発売を決めました。
まるで、ビートルズが EMI のオーディションに受かる前、とあるレコード会社のオーディションに落ちたというエピソードに似ていますね。
今、作家として、アーティストととして、メジャーから認められなくても、誰かがどこかがきっと認めてくれる! 素晴らしいものさえ作り続けていれば!
そう信じたいです。
星新一先生とタモリさんのエピソード
いろいろ調べていくと、こんな文章を発見しました。
作家の星新一先生の公式サイトに寄せたタモリさんの文章です。
一時期、夏に仲間達と伊豆の別荘に行くことが恒例になっていたことがありました。
星先生の別荘も近くにあり、たまたまその日に先生が滞在されていたので一緒に食事をしたことがありました。
食後ゆっくりと酒を飲みながら富田勲のシンセサイザーでドビッシーを大音量で聴いていました。
その夜は風もなくきれいな月が雲のない空に浮かんでいました。高台から眼下に広がる林のむこうに見える海はキラキラと輝き、右の方からうねるように降りてきた青黒い稜線が、その海に最後は垂直に落ち込んでいます。
あまりにも音楽にピッタリの光景に全員黙って聴き入っていました。演奏が終わって顔を上げた星先生の目にはいっぱいの涙が浮かんでいました。
そして「こんなに感激したことはない」とつぶやいていました。
(星新一公式サイトより)
繰り返しになりますが、本当に素晴らしいアルバムです。
是非、皆さんにも聴いていただきたいです!
生ピアノで創る一発飛び道具
誰でも知っているポール・マッカートニーの名曲「レディ・マドンナ」ですが、このイントロ頭のピアノの音色で、世界がノックダウンされました。
ザ・ビートルズ – Lady Madonna
歪んで、荒削りな音色。
ピアノが優雅な楽器の代表だとしたら、その名声をとことん裏切るようなパワフルな音色です。
打楽器のように叩きつけるイメージのワイルドなピアノ奏法!
実は、このピアノにはレコーディングの秘話があります。
レコーディング・エンジニアのジェフ・エメリックの著書にこんな記述がありました。
いつものようにポールは、今までとはちがうサウンドを求めていたので、僕は(アイ・アム・ザ・ウォルラス)でジョンのリード・ヴォーカルを録るときに使った安っぽいマイクを引っぱり出し、ピアノのサウンドホールのずっと奥につっこんだ。
こうするとくぐもった、中音域の強いサウンドが得られるのだ。ミックスの段階でも。ヴォーカルとピアノのたっぷりエフェクトをかけて、個性的なサウンドに仕上げておいた。
(ジェフ・エメリック著「ビートルズ・サウンド最後の真実」より)
当時、ジェフ・エメリックは、なんと19歳。
この若さで、アルバム「リボルバー」の録音を全面的に任された天才少年だったのです。
古い楽器も、扱い方を変えてあげれば、新しい音を吐き出す!
若くしてビートルズのメイン・レコーディング・エンジニアになったジェフ・エメリックから、いろんなヒントを学ぶことができます。
クラビネットで創る一発飛び道具
スティービー・ワンダーの「迷信(Superstition)」は、イントロのキーボードのファンキーさにぶっ飛ばされます。
そのキーボードは、「クラビネット」14世紀からある「クラヴィコード」というクラシカルな鍵盤楽器を電気的な仕組みで音を取り出すように改良したものです。
スティービー・ワンダー – Superstition
スティービー自身が叩くドラムに乗って、イントロからギターライクな音色で、クラビネットのフレーズが踊り出します。
世界でもっとも有名なキーボード・リフといっても過言でない……そんな印象的な演奏です。
これぞ、飛び道具! なフレーズです。とにかくファンキー!! 16ビートのグルーブが、聴く者の心を、体を揺さぶります。
このクラビネットを、大音量でジックリ聴いてみてください。ヘッドフォン(またはスピーカー)の左右(LR)で全く違ったプレイをしてますね。
他にも、フレーズが聞えてきます。幾重にも重なった16ビートのフレーズ達が、ずれることなく、しかも大きなウネリを描きながら、グルーブを組み立てていくのは、本当に聴いていて気持ちがいいです。
もともと、この曲は天才ギタリストの「ジェフ・ベック」のために書き下ろした楽曲です。そのため、クラビネットは、エレキギターのパートをイメージして、演奏されていました。
で、少し戻っていろいろ調べてみると……
スティービーは、この曲で、クラビネットを8回ダビングしていることが分かりました。
そのすべてが絡み合って、耳から離れないフレーズになったのですね。
スティービーのマスターテープのコピーを手に入れたミュージシャンが、YouTubeで詳しく解説しています。
マスターのコピー!?
スティービー・ワンダー「Superstition」のクラビネット解説
全編英語ですが、8パートのスティービーの演奏を順に聴かせてくれています。で、最後には、「耳コピーは無理だ!」とオチを付けています(笑)
動画の左下に見えている鍵盤楽器が、ホーナー社の「Clavinet D6」で、実際にSuperstitionで使われいるクラビネットです。
いやあ、楽しいです。
まとめ
「印象的なフレーズや音色で、楽曲が大ブレイクすることもある! 自分自身の飛び道具をさがそう!」
……これに尽きますね。
ウームソング・ドット・クラブ部長の野口から作詞や作曲を学びたい、一緒に楽曲制作をしたいという方は、こちらから気軽にご相談ください!
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