面白くて胸に染みる!作詞家が見るべき新明解国語辞典

このコラムは約7分で読めます

shinmeikai

このコラムでは、その解説の面白さや個性で激人気の国語辞典、三省堂「新明解国語辞典」をご紹介いたします。

作詞家がこの辞典から何を感じるか? 歌づくりに役立つのか? そんな目線で解説いたします。

 

 

大人気の新明解国語辞典とは

新明解国語辞典は熱狂的なファンのいる国語辞典です。その解説の斬新さ、面白さ、偏向具合が、読み物としてもとても面白いのです。

辞書には、言葉の正しい意味が載っている! ずっと、そう思って生きていきました(笑)。しかし、この「新明解国語辞典」(愛称は、新解 [しんかい] さん)を読むと、「正しい」は一通りではなく、いろんな正しさがあるのだということが分かりました。

1996年、作家・赤瀬川原平さんの著書「新解さんの謎」で、新解国語辞典が取り上げられ同書はベストセラーになりました。


同時に、辞書のほうも注目が集まり、その人気に拍車がかかりました。現在、アマゾンで調べると、新解さんは第7版、累計売り上げ2080万部。

日本で一番売れている辞書だそうです!

 

恋愛の解説

shinmeikai_renai.jpg

新解さん第4版のその部分を引用いたしました。いかがでしたか?

できれば合体したいという気持ち。恋愛の本質を見事に言い当てています。よくぞ言ってくれました! 若者は喝采です。

しかし、「常にはかなえられない」と独断的に、非モテかつ、リア充しらずの我々を突き放してくれるのです。

念のために「合体」を新解さんで調べてみると、ちゃんと「この辞書での(男女のその関係)のえんきょく表現」とそのものずばりの言葉で書いてあります。

ちなみに、新解さん第5版では、より具体的な表現で解説しています。言葉の辞書的な意味ではなく、すでに恋愛論ですね。「まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置く」など、非常に嬉し切ないです。

れんあい【恋愛】 

特定の異性に特別の愛情をいだき、高揚した気分で、二人だけで一緒にいたい、精神的な一体感を分かち合いたい、出来るなら肉体的な一体感も得たいと願いながら、常にはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置くこと。

(第5版)

 

「学校」の用例が一級品

「合体」のとなりのページに、「学校」を見付けたので読んでみました。学校そのものの解説は、残念ながら(笑)、普通のものでした。

しかし、野口はその用例に吹き出したのです。

【学校の用例】

  • いやいや学校に通う
  • 苦労して学校を終える
  • トコロテン式に学校をでる

新解さんは、そうとう学校嫌いか学校にいい想い出がなかったようです(笑)。

解説もさることながら、用例にも個性が滲み出ているのですね。

 

人間中心の施設「動物園」

動物園は、野口の持っている第4版では下記のようになっています。

どうぶつえん【動物園】

生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえて来た多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀無くし、飼い殺しにする、人間中心の施設。

さすがに、この表現には、毒や棘がありすぎます(笑)。編纂者が、かつて動物園で何かに咬まれたとか、嫌な思い出があるとか、邪推してしまうような内容ですよね。

新解さん第5版以降では、この表記は随分と柔らかく変わったようです。

 

「公僕」の解説はメッセージ

こうぼく【公僕】

(権力を行使するのではなく)国民に奉仕する者としての公務員の称。(実情は、理想とは程遠い)

これを読んで、どこかの知事さんを想い出した方もいらっしゃるでしょう。実情は、理想とはほど遠い。これは明らかなメッセージですよね。公僕と呼ばれる仕事をされている方から、抗議が舞い込んだのではないでしょうか?

逆に言えば、読者からは「よく言ってくれた」と拍手、喝采が送られたと想います。僕は、この解説文は、まるでボブ・ディランの歌詞のようだと感じました! 後ほど、ご紹介いたしますが、この辞書は「辞書は文明批評」という精神の元、編纂されているそうです。まさに、メッセージですね。

 

蛤(はまぐり)論争

はまぐり【蛤】

(浜栗の意)遠浅の海にすむ二枚貝の一種。食べる貝として、最も普通で、おいしい。殻はなめらか。(マルスダレガイ科)

ここも読者からツッコミが入る部分です。だって、「おいしい」と個人見解が入って来ます。人によって、食べる貝で最も普通なのは、「蛤」「あさり」「しじみ」と意見が分かれるところですが、一刀両断で「蛤」を代表に指名しています。

「あさり」の項を読むと、食べることに関しては、「肉は食用」としか書いていません。

「しじみ」にいたっては、「食用」としか書いてありません。

新解さんの「蛤」好きが証明されました。

 

作者「山田忠雄」主幹の熱い想い

現在、アマゾンで新解国語辞典を見ますと、第7版が最新版となっています。その編集主幹として「山田忠雄」さんの名前が載っていますが、実は、この方こそ Mr. 新解さん! 第4版までの新解国語辞典に載っているほとんどの解説文を書いた天才編集者です。

実は、山田主幹は第5版が出版される前年(1996年)に惜しくも亡くなられました。ですから、新解さんのファンは、第4版を欲しいのだそうです。野口は、ラッキーにも第4版を手に入れています。

山田 忠雄(やまだ ただお、1916年8月10日 – 1996年2月6日)は、日本の国語学者、辞書編纂者。日本大学名誉教授。

(Wikipedia より)

山田主幹の辞書編纂の方針は、

  • 言葉の解釈でのオリジナリティーを大切にする! 他書の真似をしない。
  • 長文となっても、かまわず説明しきる。
  • 言葉の裏の意味も(カッコ書きで)説明する。
  • 辞書は文明批評である。

というものでした。

特に後ろ二つが、人々の心を打つのですね。

野口が受験生の頃、さまざまな辞書を引きまくり、ヨレヨレになるまで調べたものですが、「文明批評」の辞書があるとは想いもしませんでした。「文明批評」=メッセージですよね! この辞典は、メッセージを発しているのです。

もう一度、この四つをじっくり観ると、作詞の神髄を言い当てていると想いませんか? 
オリジナリティーが大切! 言うべきことはきちっと(長くなっても)言う! ダブルミーニングの大切さ! メッセージが大切! 

歌詞を書くときは、この四項目を想い出してください!!

解説に山田主幹がちょこちょこ登場

山田主幹はしゃれっ気のある方だったようです。ヒッチコック(映画監督)が、自分の映画に必ずヒョコッと登場するように、自分の名前や考えを解説文にチョロッと登場させています。

もしや 【若しや】(副)

「もしかしたら」の、やや古風な言い方。

「もしや山田さんじゃありませんか」

(第4版)

また、ちゃっかり辞書の宣伝を解説文に書いています。

いっきに 【一気に】(副)

ある事が契機になり、以前からの懸案を図らずも達し、問題を解決したり、局面が展開したりすることを表す。

「従来の辞典ではどうしてもピッタリの訳語を見つけられなかった難解な語も、この辞典で一気に解決」

(第4版)

この辞書で「一気に」を調べた方は、きっと爆笑するでしょうね(笑)。これもしゃれっ気がたっぷりで、ファンには嬉しい一文です。

また、こんな例もあります。。

け【家】(接尾) 身分の有る家柄であることを表わす。〔広義では、普通の なんでもない人についてでも言う〕
「山田家・宮家・将軍家」

(第4版)

なんと宮宅や将軍家を差し置いて山田家を最初に持ってきています。とってもお茶目な山田主幹ですね

また、山田主幹は、愛妻家だったようです。次の解説文から、想いが滲んできます。

下の二つの例をご覧ください。

ふじん 【夫人】 

接尾語的にも使う。例、「山田夫人」「夫人同伴

(第4版)

ふさい 【夫妻】 

接尾語的にも使う。例、「山田夫妻

(第4版)

主幹の愛情や、きっと人生をかけて辞書編纂に携わり、愛する奥様との時間が持てなかった……その思いを、奥様を辞書に登場させることで、プレゼントとしたのではないでしょうか? 

山田夫人で、夫人同伴で、山田夫妻です! 想いが溢れていますよね。僕の勝手な想像ですが、そんな想いにさせてくれる例文でした。

 

作詞家視点で見る新明解国語辞典

山田主幹が、ほんとうに愛情をもってこの辞書を編纂したことは、上記のいろいろな例をご覧いただければ皆さんにも感じていただけると想います。

皆さんは、主幹のように、愛情をもって歌詞を書いていると自負できるでしょうか? もちろん、数万語を解説する辞書と歌詞では、かかる時間も文字数も違いますが、山田主幹から作詞家として学べることは沢山あると想います。
山田主幹の理念を、クリエイターを主語として考えると……

  • 自分を作品の中に表現する

  • たった一語の意味を徹底的に考える

  • 言葉の裏の意味を大切にする

  • 言葉を文明批評として捉える

どれもこれも作詞家! いや作曲家にだって、そうすべてのクリエイターにとって大切なマインドですよね。

「山田夫人」「山田夫妻」で、主幹の愛情を感じた僕は、「恋愛」の解説に赤裸々に描かれた主幹の恋愛論! それも奥様への愛情の証だったかもしれないと感じています。

辞書でこんなに話題が広がるとは! いやあ素晴らしい新解さん。「新明解国語辞典」は、まさに作品と呼ぶにふさわしい辞典です。

大学の同級生だった日本辞書界2人の天才「ケンボー先生」と「山田先生」の物語。


そして……

ぜひ、手にしてみて下さい。

 

まとめ

ネットで検索すれば、すぐに分かる言葉の意味。駄文を書くにはそれで十分でした。でも、これぞという勝負の作品は、この辞書を引いて言葉を選んでみようかな? 山田主幹、お知恵を拝借いたします! そんな想いで辞書を引いてみましょう。

作詞作曲を学びませんか?ウームソング・ドット・クラブの会員サービスはこちら

スポンサーリンク


野口 義修

投稿者プロフィール

音楽プロデューサー。
ベストセラーの『作曲本』(シンコー刊)や『楽しく学べる作詞作曲』(ナツメ社)の著者。
あみんの「待つわ」、雅夢の「愛はかげろう」、アラジンの「完全無欠のロックンローラー」、 伊藤敏博の「さよなら模様」......など多くの才能やヒット曲を世に送り出す。ヤマハ音楽院、昭和音大で作曲などの講師を歴任。

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

  • トラックバックは利用できません。

  • コメント (2)

    • 澤近泰輔
    • 2016年 8月 25日

    野口さん!
    これはなんとも面白いブログでした!

    • 野口 義修
      • 野口 義修
      • 2016年 8月 25日

      おお、澤近さん、言葉の天才 そして、ヒットメーカーの澤近プロデューサーに 認めて貰えると 野口のアドレナリンもたぎります。
      ありがとうございます。
      今度、 このサイトで 対談をしましょう。 よろしくお願いいたします。 

メンバーシップ

運営者情報

yoshinobu_noguchi_300_300

野口 義修

音楽プロデューサー。

ベストセラーの『作曲本』(シンコー刊)や『楽しく学べる作詞作曲』(ナツメ社)の著者。

あみんの「待つわ」、雅夢の「愛はかげろう」、アラジンの「完全無欠のロックンローラー」、 伊藤敏博の「さよなら模様」......など多くの才能やヒット曲を世に送り出す。

ヤマハ音楽院、昭和音大で作曲などの講師を歴任。

詳細プロフィール

feedly

follow us in feedly
ページ上部へ戻る